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治療に対する概念

「治る」とはどういうことか?

症状を消すことではない

鍼灸治療において、鎮痛作用は重要な要素であろう。現代医学的科学派鍼灸においても、古典鍼灸理論においても同様である。西洋医学と異なる点は有害な鎮痛剤を使用しない無害であるところが優位であるとしている。しかし、その症状の生体現象としての意味をいずれの医学も究明していない。

単に、症状即病気として症状を取るのが治療とする観点からは、治療をせずにそのままにしていたらどうなるのかの視点がなく、その検証もされていない。

しかし、その症状の生体現象としての意味を究明され簡単な例が、肩こりであり、腰痛である。刺鍼、マッサージで筋肉を弛緩させ、鎮痛させること、本来の生体維持機構(ホメオスターシス)を低下せせることが少なくないはずである。なぜなら、肩こりは、腰痛は何なのかを究明せずに、治療するものとしてその対象にしているからである。

肩こりについて説明しよう。この場合、すべての医療家が浅部の筋肉しか見ていない。このとき深部の関節を固定している靭帯は弛緩しているのである。このようなケースで起きている関節と軟部組織の関係は、筋肉が硬縮しているので関節の可動性が低下しているが、関節部分の可動性は逆に過可動性になり、関節の歯止めが効かない。

つまり、関節靭帯が弛緩しているとき、脊髄が弛緩している。この状態では、ひどくなれば脱臼する。それを防止するのが筋肉の硬縮であり、その関節のずれによる神経圧迫からの疼痛である。生体はこの関節機能を回復させるために、筋肉の硬縮で脱臼を防止し、疼痛で回復のための休養を指示しているのである。このレベルであらゆる症状発症の意味まで治療家は考えなければ、治癒力を低下させて、それに気づかない治療家になる。

そして、症状の意味が分かると、病気、障害が容易に治ることが分かってくる。治療家は患者の日々の症状の訴えに振り回されてはならない。症状と体の健康度は別である。日々体が悪くなるのなら、人間の寿命が数十年も生きられないはずである。

痛みを消すのは簡単

ここで興味深い実験をご紹介しましょう。鍼灸師を対象にしたセミナーでわたしが行っているデモストレーションである。

セミナーの参加者はみな鍼灸師だから、最初に被験者の腹部に触ってコリと圧痛を確かめてもらう。その後、わたしが「ある物」をコリのあたりに貼り、参加者に再び腹部を触ってもらうのだが、そのときには圧痛が消えている。

わたしが貼ったものの正体―それは殺虫剤である蚊取り線香を砕いたものである。この場合、貼るのは蚊取り線香や鉛、化学薬品など人体に有害な物質でなければならず、米粒など無害なものを貼ったとしても、このような効果はない。

では、いったい何が起こっているのでしょうか?

感覚の鋭敏な鍼灸師であれば、蚊取り線香を貼った周囲はコリだけではなく正常な張りまでも失われ、ほかの部位と比べて冷えてしまっていることが分かる。その体温の低下と同時に知覚も鈍くなり、痛みや症状が軽減している。

つまり、完璧に生体の機能低下が起こり、その結果として痛み、コリが無くなったことを知らなければならない。なぜなら、痛みの消失と同時に、首、背中、腰の動きが制限され、体力のバロメーターである筋力も低下してしまうからである。

ところが、これに近いことをやっているのが、一般的な鍼灸治療やそのほかのさまざまな治療法、そして病院における多くの治療なのです。

本治法で取れない痛みを追う標治法なども該当するし、皮内鍼の効果も正にこのことを意味している。それは決して高度な治療行為とはいえず、痛みや症状が軽減・消失したとしても「治った」とはいえない。従来の鍼灸がただ痛み取りが主体で、治って行かないのはまさにこのことである。

痛みを大事にしよう!名人鍼灸師への第1歩。

茂木昭 著 「奇跡の新鍼灸と手技治療(「生命のささやき」の改訂版)」より抜粋


痛みやコリの訴えに耳を傾ける?

痛み・症状は体からの警報であり回復力の表れ

生体は元々他者の治療行為を必要としていない。生体の指示通りに生活すれば治るようにできている。治療家の傲慢な浅知恵と自己の体を信頼せずに、他者に甘えたがる病人根性を自然治癒力は最も嫌悪している。実に治療家とは生体に対する謙虚さが見られない。

患者なら、痛み・症状があると「自分は健康ではない」と考えてしまうものだが、痛みや症状を、その奥に潜んでいる問題を自覚させてくれるありがたいもの指導することで、患者は劇的な回復に向かう。

神経の正常な働きをマヒさせてはいけない

しかし、医師や鍼灸師たちが行っている治療の多くは痛みや症状を止めようとする対症療法であり、この場合健康になろうとする体の努力をことごとく妨害するような行為だといる。このような治療を長年受けていると、ついに体は自力で回復する力を失い、健康を取り戻すことはますます難しくなってしまう。

茂木昭 著 「奇跡の新鍼灸と手技治療(「生命のささやき」の改訂版)」より抜粋


自分の体を正しくとらえるということ

体が持つ回復力を信頼する

目先の症状、痛みだけにとらわれて大騒ぎするのが患者の常である。治療家は患者に代わって、患者の体を信頼してあげる。自身の心に裏切られている悲惨な体を理解してあげることが、正しい治療行為である。例えば、ムチ打ち障害ではケガをした直後に、気分が悪い、吐き気がする、力が入らないなどの症状が強く現れるが、痛みはあまりない。ところが、日数がたって神経系が回復してくると、首の痛みが生じてくる。この痛みは、身体の回復による知覚神経の生体回復ための痛みであり、確実に回復してきているあかしである。

その反対に、痛みだけに注目してしまうような人は、生体の反応を理解できない鍼灸師は「吐き気がなくなってきたと思ったら今度は痛くなってきた」と騒ぐ患者にいつも振り回される。

茂木昭 著 「奇跡の新鍼灸と手技治療(「生命のささやき」の改訂版)」より抜粋

正しい治療と間違った治療の違い

間違った治療でも治ることがある

体が持つ回復力はとても巧妙に働いる。

ムチ打ち障害の例で言えば、受傷直後で首がほとんど動かないような状態は、首の周りの筋肉がちょうどギプスのような働きをして、傷ついた靱帯を守っている。

肩コリや腰痛で筋肉にコリができている場合も同じことで、弱った靱帯をかばうために、コリが天然のギプスの働きをしている。その生体が治るための症状を消すことに、鍼灸をはじめとするさまざまな治療法が躍起になっている。

その意味で、治療行為には「正しい治療」と「間違った治療」の2つがあることになります。簡単に言うなら、前者は神経の働きを正常にして生命力と回復力を高め、後者はその逆に、神経の働きを鈍らせて痛み・コリを取る一方で生命力と回復力を低下させているのです。

正しい治療は、痛みや症状を追わず、患者の生命力と回復力が根本からし向上して行き、痛みや症状は逆に早く解消して、着実に健康へと向かって行くものである。そして、その症状もぶり返すことがない。なぜなら、階段を昇るように健康度がステップアップして行くからである。

一方、間違った治療の場合、目先の痛み・症状を解消することに追われ、患者の生命力を向上させていくという視点が抜け落ちている。警報としての痛みや症状を無理に抑えてしまうので、正常な神経の働きは低下してしまい、治癒力の巧妙な仕組みが円滑に働かなくなる。

正しい治療と間違った治療の見分け方

患者自らが体を正しくとらえることができたら、「正しい治療」と「誤診と正診断」とを見分けられる。正しい治療を受けると生命は喜びを表し、逆に間違った治療では生命は苦痛から沈滞していくからである。

いくつか具体的な判断基準を示してみよう。

正しい治療を受けるとこうなる
  • ・必ず、正しい治療は目がパッと開いて視界が明るくなり、視力が向上し、脳内がすっきりする。
  • ・静かな深い呼吸となる。
  • ・姿勢が良くなり、背筋が自然に伸びる。老人ほど顕著である。足腰がしっかりとして軽くなる。
  • ・顔の血色が良くなって、ほんのりと発汗する。

間違った治療を受けるとこうなる
  • ・目がとろんとして、飲酒時のような気だるい感じになる。
  • ・あるいは、不自然に気分が高揚する。
  • ・呼吸が浅くなり、首・肩が重くなる。
  • ・猫背気味になり、足踏みをするとヒザが脱力してふらつきやすい。
  • ・血液循環が悪くなって冷えを感じる。

鍼灸自身が鍼灸治療を受けたとき、おそらく、後者にあてはまることが多いはずである。一般の治療院の玄関で観察してみると、治療直後、すでに肩コリを覚えて首を動かしている患者の姿をよく目にする。多くの患者は、治るのではなく、この気だるい感覚を効いた感じとして満足してしまう。一般鍼灸臨床では、このようなことから治療後の精細な体の可動性、疼痛のチェックと避けている。

茂木昭 著 「奇跡の新鍼灸と手技治療(「生命のささやき」の改訂版)」より抜粋


正しい治療は脳と脊髄を正常にする

「気だるい心地よさ」は警報システムのかく乱状態

気だるい感じになったり気分が高揚したりすると、「治療が効いた」と勘違いしてしまいがちで、これは明らかに神経系の機能低下である。この場合、痛みをはじめとする症状は一時的に軽減するか消失するが、その一方で、似たような痛みや症状が体のあちこちでぶりかえす。しかも、このような治療を何度も繰り返すことで治癒力が低下し、症状は慢性化してしまう。

実に多くの人々が、間違った治療を受けたときに感じる気だるさや眠気を「リラックスした状態」であり、体に良いものだと勘違いしている。

一方、正しい治療では、酩酊感や高揚感といった感覚は生じない。脳、神経系の働きが正常なときには、そういった特殊な精神状態になることは決してない気分が穏やかな明るさになる。

脳と脊髄を正常にする方法

半身症候鍼灸法では、治療時にその患者の持っている回復力の範囲内で痛み・症状が消える。つまり、正しい治療とは、その時点での回復力を100パーセント引き出し、脳と脊髄の働きを回復させるものなのである。

わたしは35年の臨床経験から、「脳と脊髄を正常にすることこそが正しい治療である」という結論に至り、人体のあらゆる組織と心の障害が脳と脊髄の調整で改善されるということを、長年の治療で検証してきたからである。

茂木昭 著 「奇跡の新鍼灸と手技治療(「生命のささやき」の改訂版)」より一部抜粋



正しい治療には即効性がある

投薬治療よりも早く症状が解消する

「症状の解消を目的としない」、原因のみ追うという治療は、現代医学における投薬治療よりも即効性があることが多い。

例えば、頭痛の場合では鎮痛剤の内服よりもずっと早く症状が解消するのが普通で、脳を診断したうえの治療では、患者のほとんどが治療後1分以内に頭痛が消えている。一度の治療後も頭痛が残っているという例に遭遇したことがない。

向上していく回復力が再び損なわれない

多くの難治性疾患には、先天的体質、幼少期の外傷、打撲などを原因とするものが多い。それらの外傷からの脊椎の圧迫骨折、頭蓋骨の骨折、その外傷からの脳組織の血行障害などを従来の鍼灸では全く診断力がなく、古典鍼灸理論では治る道理がない。

茂木昭 著 「奇跡の新鍼灸と手技治療(「生命のささやき」の改訂版)」より一部抜粋


生命力が回復するとこうなる

治っていくプロセスについて

新鍼灸法(半身症候鍼灸法)が従来の治療法と多く異なるのは、症状の解消ではなく、生命力の向上に焦点を合わせているという点である。そこで、この治療法で治っていくプロセスについて、正しい治療の項でも述べたが、生命力の向上という視点から、ここで少し触れておきたい。まずは、治療直後の変化から。

治療直後の変化
  • ・顔色と姿勢が良くなる。肌のつやが出て表情も明瞭に明るくなる。
  • ・目がパッと開いて視界がクリアになる。頭もすっきりとする。
  • ・呼吸が静かに深くなる(心肺機能の向上)。
  • ・足腰がしっかりとして軽く、足踏みをしても重心がぐらつかない。
  • ・全身の筋肉が締まってくる(ズボンが緩く感じることで確認できる)。それと同時に筋肉の柔軟性と弾力が増す。
  • ・腹部が弾力を持った柔らかさになる。
  • ・痛みや炎症などの症状がその場で改善する。
  • ・頭蓋骨の歪みが変化したことが確認できる。

さらに、多くの患者が治療を何度か受けるうちに、次のような変化を実感している。

治療過程の進展における変化
  • ・性格が前向きになる。子どもも大人も安定した性格になる。
  • ・痛めにくい理想的な筋肉が自然についてくる。
  • ・血色のいい色白の肌になってくる(腎機能の向上)。
  • ・身体の機能が改善していくので難病も確実に治っていく。

病気や不調の背景には、地層のように積み重なった問題があると考えてもいいだろう。その表層が取り去られると、さらにその下の地層が現れる。また、マヒしていた神経の働きが回復することで、それまでに感じていなかった痛みが表れることもある。

しかし、症状と健康度は本来別のものであることを認識することが大切です。

茂木昭 著 「奇跡の新鍼灸と手技治療(「生命のささやき」の改訂版)」より一部抜粋


脳・脊髄と骨格の関係

なぜ背骨は歪むのか

新鍼灸法の数万人にも及ぶ治療経験から分かったことは、背骨をはじめとする骨格の歪みや、そこに関係する筋肉のコリ・痛みの根本原因は脳と脊髄機能の低下にある。つまり、背骨が歪むから神経の働きが低下するのではなく、脊髄の働きが低下するから背骨が歪んでしまう。

脳・脊髄の働きの低下は、次のようなプロセスを経て骨格や筋肉に影響する。

  1. 脳と脊髄が弛緩してその働きが低下する。
  2. 脊髄神経の支配を受けている靱帯の働きが低下して緩みを生じる。
  3. 靱帯が緩むと関節の保持力が低下し、関節が不安定になって骨格の歪みが引き起こされる。
  4. 関節をできるだけ安定、保持させるために筋肉を緊張させる(コリ)。それが過度になると、痛み・障害が生じさせる。

脳と脊髄の働きを低下してしまう理由については後の章で説明するので、ここでは、脳・脊髄の働きの低下によって骨格の歪みや筋肉のコリが作られるという点に注目してほしい。

茂木昭 著 「奇跡の新鍼灸と手技治療(「生命のささやき」の改訂版)」より一部抜粋


鍼灸への疑問① 鍼灸はどこまで治しているのか?

鍼でも効かない痛みが増えている理由

近年、増え続けている整体院等の開院に対して、鍼灸師の間から、営業上の危機感を抱いているという話を耳にする。しかし、鍼灸が整体以上に患者を治しているのであれば、なんら危惧する必要はないはずで、逆に言えば、整体院の増加に不安・不満を抱く鍼灸師は、自らの治療に自信がないということを告白していることになる。

著名な鍼灸院はあっても、患者の様子を見ていると玄関を出る頃にはもう「鍼のはり返し」(副作用)で首を回している。あるいは、自分で受けたときには、鍼灸院を出て200メートルも歩くと、全身の関節が緩んでヒザに力が入らない状態になることがある。これこそ鍼灸は痛みを鈍麻させる治療であることが言えるのである。

この点でも最近ではじゅうぶんな成果を上げられないケースが激増しているはずである。その背景には抗生剤の多様による多剤耐性菌の存在がある。どこへ行っても治らない痛みは、そのような病原体の感染が原因となっていることが多い。その感染源で多いの、手術したときは、その箇所。それ以外で多いのはワクチンの接種箇所、健康診断時の採血からの感染である。

当然、筋肉のコリや痛みの部位を聞いて、問診だけを頼りに鍼を刺すような鍼灸法ではそのような痛みには対処しきれない。その代表的な原因として、MRSAやヒト口腔内連鎖球菌による感染がある。

真の鍼灸は病院で治らないものを治すもの

鍼灸師向けの専門書を見ても、「鍼灸不適応疾患」が強調され、さらには鍼灸を「QOL(生活の質)を改善する治療法」と位置づけている傾向が見られる。

鍼灸師を対象とするセミナーでも名人と呼ばれるような熟練した指導者による技の披露でも、術前・術後の変化を明確に確認できることはあまりない。例えば、アトピー性皮膚炎に対して「この治療を3カ月行うと治ります」などと言いますが、1回の治療で治療前後の差が患者の姿から判別できることがない。1回の効果がない治療を何回施しても、たいした成果は上がらない。本来の鍼灸なら初回の一回の治療から、明瞭に回復してくるものである。


鍼灸への疑問② その場の痛みを取るだけでいいのか

「邪気治療」でも痛みは取れる

前に挙げたように、痛みやコリを取るだけなら蚊取り線香の破片や固形の殺虫剤でもできる。ツボに貼り付ける磁気粒やチタンシールといったものが痛みに効くのも同じ原理である。それらはみな有害物質として働いて体の神経系の正常な機能を乱して知覚鈍麻を引き起こし、結果として痛みが軽減するか消えてしまうと説明できる。

なお、鍼灸師が痛み取りではない根本治療を目指したとしても、その人自身にスイッチング(アプライ・キネシオロジーで神経系の錯乱状態と言う)があれば、患者の神経系の正常な機能は乱されて結果的に知覚鈍麻を引き起こす。それはある意味で「邪気治療」となってしまい、症状の一時的な解消にはなっても、体質が低下し、根本的に疾患が治っていくことはない。しかも多くの治療がこのような邪気治療になっている。

茂木昭 著 「奇跡の新鍼灸と手技治療(「生命のささやき」の改訂版)」より一部抜粋